畜産にテクノロジーが必要な理由

 

 

畜産にテクノロジーが必要な理由は様々な場面でありますが、ここでは最もわかりやすい事例を1つご紹介いたします。テクノロジーを語る前に牛肉の価格を決定する要因としてとても大切なBMSという一つの基準の話からしていきます。牛肉の価格決定要因の大きな要素として、BMSという指標があります。ビーフ・マーブリング・スタンダードの頭文字をとりBMSと表記されます。このBMSは、と畜時に牛のあばら骨の6本目と7本目の間をカットしその際のマーブリングつまり霜降り具合を確認し決定していきます。もちろんBMSだけで全ての評価が決定するわけではありませんが、最も重要な指標と言ってもいいでしょう。指標の決定は鑑定士によって決定されます。このページを読まれている方の中にも、A4やA5という牛肉の評価を耳にしたり、実際に見た事のある方も少なくはないのではないでしょうか。そのA◯という数字の部分が、このBMSを中心に決定する仕組みとなっています。数字は1から5まであり、上図のBMSの幅により決定することになります。数字は高くなるにつれてより良い評価となります。これを格付けと言います。

平成29年和牛雌、枝肉価格

では、次に進んでいきましょう。BMSを中心に格付けされた1等級から5等級までの牛肉にどの程度価格の差がついてくるのか気になるかと思います。下図に平成29年次の枝肉価格を表記いたしました。A1の評価の牛肉はこの時は対象が無く価格が表示されておりませんが、A2とA5では約1,000円の差があります。次に下段のトータル価格という部分に目を向けて頂きますと、kgあたりの単価に実際の重量を掛け合わせたトータルの価格が表示されております。この価格が卸事業者への販売価格となっていきます。

A1A2A3A4A5
枝肉価格-1970円/kg2236円/kg2481円/kg2835円/kg
トータル価格-945600円1073280円1190880円1360800円

高い品質を求めることは重要

こうして格付けと価格を確認していくと、おそらく多くの方はA4やA5の牛肉を育てていくことこそが畜産にとっての高い価値であり、テクノロジーで解決すべき目標値であると思ってしまうのではないでしょうか。その証拠に左図上段は平成7年から平成29年までの格付別の出荷数の増加が示しています。生産農家の努力ももちろんありますが、この指標で注目する点は平成20年すぎたあたりからのA4-A5の評価の伸び方です。この時期からどうして評価の高い牛肉が増えてきたのでしょうか。

牛の生産数そのものが上昇した?

そうした理由もないわけでもないですが、問題は別にあるかと考えます。左図下段は平成17年から平成29年までの牛の出荷頭数をグラフにしたものです。平成20年の後から出荷頭数は確かに増えているものの、平成27年からは減少傾向にあります。生産頭数と格付評価が必ずしも相関が見られない事になります。

 

BMSを上昇させるテクノロジーが発展してしまった事

平成20年の後の格付が上昇した理由の要因として考えられる一つとしては、BMSを上昇させるテクノロジーが発展した為ではないかと考えています。BMSの高い牛肉には高付加価値があり消費者にも評価が高い事、そしてBMSの高い牛肉を育てる事が生産者の目標でもあり経済合理性もある事を考えると、これもまたテクノロジーの発展だと思います。

Meattechが考える偏重のリスクについて

チャールズ・ダーウィンの種の起原にこんな言葉があります。 「淘汰が個体に適用されると同様に一族にも適用され、こうして欲する目的に到達することを念頭におけば、種は減少するかあるいは消滅すると私は信じる。養牛家は肉と脂肪が十分よく大理石模様に入り混じることを望んでいる。この特徴のある牛は屠殺されてきたが、養牛家は確信を持って同一系統のものと求めてそして、成功してきた。」 チャールズ・ダーウィン/堀伸夫・堀大才訳 種の起原より これは何を語っているのかというと、BMSの価値基準のような一方向の価値基準を作りあげてしまい、その頂きに向かって生産努力を行ってしまう事により価値の偏重が生まれてしまう事を危惧しています。

牛も、やはり生き物ではあるので価値の偏重が進行して行けば必ず”種”は偏ります。偏った”種”は優生な遺伝子のみが高い評価を勝ち取ることになります。この流行にも近い価値基準を10年、20年と続けていくとどんなことが起こりうるでしょうか。不必要とされた”種”はいずれ必ず淘汰されていきます。その時、必要と不必要の判断を決めているのは誰が決めるのか。この点がとても重要になります。前述したBMSは日本での価値基準ではありますが、EUなどではマーブリングにはさほど価値を見出してはいません。このように価値基準は不変的ではないのです。

京都産業大学  野村哲郎教授のホームページにはこのように記されております。

遺伝的多様性を失った場合の顕著な例が、19世紀にアイルランドで起きたジャガイモ飢饉です。当時のアイルランド人にとって主食であるジャガイモが、たった一度の病気の流行により全滅。200万人以上が死亡、多くの人がアメリカやイギリスに移り住みました。元アメリカ大統領J.F.ケネディはこの移民の子孫であり、まさに「歴史を変えた大飢饉」と呼ばれています。
ジャガイモはクローンによって増えていきますが、当時アイルランドで栽培されていたジャガイモは全てたった一種のジャガイモのクローンで、遺伝的に均一だったのです。そのため、全てのジャガイモが同じ疫病にかかってしまったのです。もしもこの時、アイルランドのジャガイモに遺伝的多様性があれば、疫病に抵抗力のあるものが生き残り、飢饉の被害を食い止めることができていたかもしれません。
同様の危機に直面しつつあるのが黒毛和牛です。1990年代以降、黒毛和牛の品種改良において遺伝学の利用が急速に進みました。ある雄牛の遺伝子が鮮やかな霜降りを作ることがわかると、その牛の精液をたくさん採取してさまざまな雌牛と交配させ、霜降り牛をたくさん生むことが可能になったのです。
しかし、少数の優秀な遺伝子を長年にわたって利用した結果、2000年代以降に生まれた黒毛和牛の半数以上が、たった5 頭の雄牛の精子を利用して生産されるようになりました。黒毛和牛の遺伝的多様性が急速に失われているのです。
現在、黒毛和牛の優秀さは霜降りの鮮やかさですが、近年の健康志向などから人々の嗜好が変化してくれば、和牛も霜降り重視から変えなくてはなりません。そのため、さまざまな性質を作り出す和牛を残しておき、将来の品種改良に備えることが急務になっています。

京都産業大学 総合生命科学部 生命資源環境学科 野村 哲郎 教授

Meattechが目指すテクノロジーは、牛肉の多様性のある市場構築に向けたテクノロジーと言っても過言ではありません。その昔、コーヒー豆はブルーマウンテンを最上位として価値が偏重しましたが、今では良質な品種、良質な味を求めて市場が進化しています。同じようにワインやカカオなども多様性のある市場を構築することに成功しています。日本でも豚肉や鶏肉に関しては価値基準よりも味を求めて変化した市場ではないかと感じています。牛肉の市場に多様性が生まれ、消費者が好みによって血統や牧場を選択できる成熟した食文化を作るためにMeattechはテクノロジーを前進させていきます。

株式会社Meattech CEO 中山智博

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